夜、オレは目を覚ました。
  というのも、さっきから誰かがオレを起こそうと話しかけてくるからだ。
  うざったい事この上ない。

  『勇者様、どうかお目覚めください。そして我々の国をお救いください』
  『勇者様、お願いします!』
  『我々をお救いください!』
  『勇者様!』
  『勇者様!』


  あ――――!うぜぇ!

  
  オレは飛び起きて机の上の古書――オレの曾祖父ちゃんの形見。さっきからここから声がしている――を思い切り開いた。
  古めかしい羊皮紙の中で、イラスト達が半狂乱していた。
  年寄りから小さい子供まで、あっちの世界の住人が一斉にオレを見た。
  みんなオレに向かって精一杯腕を伸ばしながら、恐怖に引きつった顔で懇願してきた。

  『勇者様!』
  『おお、よくぞお目覚めくださった!』
  『勇者様!伝説の魔王が復活したのです!』
  『どうか我々の先祖をお救いくださった時のように、我々をお救いください!』
  『貴方にも伝説の勇者様の血が流れておられるのです!』 
  『ゆうしゃさま、おねがい!』
  『魔王を倒せるのは貴方だけなのです!どうか!』
  『勇者様!』
  『勇者様!』

  何なんだ、こいつらは。
  さっきから馬鹿の一つ覚えみたいに「勇者様」「勇者様」って。
  魔王の退治?オレが?
  
  『さあ勇者様!こちらへお手を差し伸べください!』
  『こちらにかつての勇者様・・・あなたの曾お祖父様が使われていた聖なる剣が御座います!』
  『さあ急いで、勇者様!このままでは・・・』

  ぱたん。

  オレはごく普通に古書を閉じた。  



  
  こんな奴らに付き合ってられる程、オレは暇じゃない。
  明日は朝から大切な野球の試合がある。
  明後日は彼女と遊園地でデート。
  明後日は学校。その後にはバイトもある。

  オレは忙しいんだ。
  伝説の勇者なんてやってる暇なんか、絶対に無い。
  
  「あー、クソ。とんだ時間喰っちまった」
  
  オレははた迷惑な古書を引き出しの中に閉まってから、明日の為に眠りについた。