俺は母さんが嫌いだった。
  母さんも俺が嫌いだった。
  何かとつけて暴力を振るうから。

  母さんは俺を束縛するから、当然俺は反抗した。
  それが暴力と新しい束縛を生む、そんな悪循環。

  鬱陶しいから殴る。
  単純な動機だ。

  「早く大人になって、さっさと家出してやる。
  そしたら、もう母さんと顔を合わせる事はないだろ?」
  
  小さかった俺は妹にそう零した事がある。
  妹は俺の一番の理解者だった。
  だから、他の奴には言えない事も、妹にだけは言えた。

  「そんなの駄目よ。お母さんが寂しがるもの」

  だけどそんな妹でさえ、最後まで俺に賛同しなかった。
  自分だって殴られて痛いくせに。

  俺が家を出て、どうして母さんが寂しがるのか。
  それが理解できなくて、俺はひとりで家を出た。
  これが一番良い方法だ。
  こんな手っ取り早くて簡単な方法で、俺も母さんも幸せになれる。
  妹は頭が悪い。

  国境を超えた。仲間がいるから怖くない。
  仕事を見つけた。居心地はまぁ悪くない。
  自分で食えるようになった。時には人から奪った。

  でも、何年経ったって、母さんへの恨みは変わらなかった。
  馬鹿な妹のもどかしさも。
  何時の間にか恨みに昇華していた。

  誰かを恨むことでしか平常心を保てない。
  そう確信した時、

  改めて、俺は母さんの息子だと思った。